空手道は子供の頃から始めるイメージが強いかもしれませんが、実際には、社会人になってから始める人や、子供が始めたのをきっかけに親子で始める人、就職後の運動不足解消のために始める人、定年退職後の体力づくりに始める人など、大人になってから初めて空手道の稽古を始める方も少なくありません。
大人の場合は、子供に比べて筋力や体力は衰えているかもしれませんが、空手道は、もともと体が大きかったり筋力や体力の強い人たちのための武術ではなく、むしろ、体が小さく弱い者が、体を鍛えることで強い者に屈しない心の強さを養うための武術ですので、筋力や体力は空手道の稽古にとってあまり重要な要素ではないと言えます。
また、空手道との付き合い方も人それぞれですので、ご自身のペースで自身に合った目標を立てて稽古に取り組んでみてはいかがでしょうか。
健康や美容のために
空手道をはじめ日本の武道では、人間が持つ力以上の力を発揮するために理にかなった身体の使い方をします。なかでも腰を基点として動くことが多く、そのため自身が持つ筋力以上の威力を発揮することが出来ます。特に松涛館流の空手道では、膝をしっかりと曲げ、腰を落とした上で、腰をひねる動作を行いますので、普段の生活では使わない筋肉が刺激されます。
この結果、全身の筋肉がバランスよく使われ、腕やウエストや足回りがしなやかに引き締まった健康的な身体がつくられます。
ウェイトトレーニングでは、どの筋肉を使っているのかを意識しながら筋肉に負荷をかけることが効果的と言われますが、空手道の稽古では、指先から足先まで意識して稽古を行います。普段使わない筋肉も意識しながら動作を行う機会が多く、普通の筋トレではなかなか引き締められない身体のパーツまで引き締めることができるのです。
人生に役立つ空手道の心得(空手道二十訓)
松涛館流空手道には、道場訓(別ページ参照)とは別に、空手道二十訓という基本理念があります。これは、松涛館流空手道の開祖、富名越義珍先生が残された二十の心得です。
成人した大人が空手道と関わる中で、この二十訓を念頭に稽古をしてみると良いかと思います。
その中からいくつか抜粋してご紹介します。
空手道は礼に始まり礼に終わることを忘るな
別のページでも紹介しましたが、空手道ではあらゆる場面で礼をする機会があります。これは、先生や対面した相手に対して敬意を払うという意味もありますが、その他にも、礼という動作をすることで、自分自身の心と向かい合い、これからする稽古や動作への気構えを高め、集中力を高めるという意味合いがあります。
このような気構えは日常生活の中でも多いに役立つと言えます。
どのような場面でも決して驕らず高ぶらず、相手への敬意を保ちながら、自分自身は毅然たる態度で臨むことで、逆境にも強く周囲の人とも円滑に過ごせるのではないでしょうか。
技術より心術
稽古の中で「形を演舞する前の心構え」や「組手で相手と対峙する心構え」「立ち居振る舞い」「目線」や「気構え」など、空手道の精神論に関係するお話をする際に、社会人の方から「仕事にも共通しますね」と言われることが多々あります。
空手道の稽古を通して体を鍛えることは心を鍛えることであり、強い心を持つことは日常の困難にも負けず他人にも優しくなれるということです。空手道を通して経験したことや身につけた精神力は、実生活の中のあらゆる場面で、自分自身を助けてくれる心の強みとなります。
勝つ考えは持つな負けぬ考えは必要
私の地元の恩師が常に言っていた言葉です。相手と対峙した際、「勝ちたい」「勝とう」と思えば思うほど、形に力が入り、心が緊張し、思うように動けなくなる。
また、頭に血が上り冷静な判断も出来なくなってしまうため、平常心を保てなくってしまう。相手に勝ちにいくのではなく、目の前の相手に決して負けないという心構えが大事ということです。社会に出てから感じたことですが、勝ち負けにとらわれず、決して負けない心構えというのは、試合での勝負の話だけではなく、日常生活やビジネスの中でもこの心構えを軸にすることで、いらぬ争いを免れたり、コミュニケーションがうまくいく場面が多いのではないかと思います。
あらゆるものを空手化せよ其処に妙味あり
空手道の稽古を通じて、技術や精神が鍛えられたとしても、それが実生活の中で応用出来なければ意味がありません。
特に大人になってから空手を始める方は、空手道の稽古の中で気づいたことを、自分ごとに置き換え、実生活の中でどのように活かせるのかを考えていくと良いと思います。
実生活の中でつまづいたり、大きな壁にぶつかるなど、人生の窮地に立たされた時、空手道の稽古を通して自然と身に付いたことが、糸口となって自分を助けてくれるかもしれません。